ウィズコロナ時代のオフィスはどうあるべきか――。三井不動産や東京建物などが「東京駅」周辺でこの命題に挑んでいます。八重洲に建設するビルには感染防止や柔軟な働き方への対応がふんだんに盛り込まれます。一方、丸の内や有楽町では街のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進行します。コロナとDXがカギを握る新時代の再開発を迫りました。
「新たなビルには、接触しなくても機能する設備を入れていく」。三井不動産の菰田正信社長は、強調しています。社員のテレワーク移行をきっかけに「オフィス不要論」も飛び出しているが、菰田氏は異論を唱えます。テレワークの生産性の低さなどから出社する人が戻ると予想しています。そもそも上司がいなければ、やっぱりさぼってしまいます。
「換気や抗菌など徹底した感染防止対策をしたビルにはニーズがある」と説きます。
同氏の考えを実践するのが、2022年夏に開業する大型オフィスビルです。東京駅前の、「八重洲二丁目北地区の再開発プロジェクト」で、地上45階、地下4階にオフィスや商業施設、日本初進出の「ブルガリホテル東京」が入居します。中でも、7~38階を占めるオフィスは、1フロア約4千平方メートルと東京駅周辺で最大級の広さを持ちます。
新ビルは、三井不動産にとって新型コロナ後に完成する初めての大型物件になります。利便性向上に向けて、デジタル技術は、もともと取り入れる予定だったが、完成まで2年くらい時間があったため、菰田社長の意向も踏まえて、ウィズコロナ・アフターコロナ対策を盛り込み、設計を見直したといいます。
同社が、検討するコロナ対応のオフィスビル運営とは何か。キーワードは「ビルの入館からオフィスフロアに入るところまで一度も手を触れずに行う機器の導入」(ビルディング事業三部の山口周平主事)です。
エントランスや共用部のドアを顔認証で自動化です。エレベーターやドアノブも非接触ボタンを導入する計画です。それ以外でも来館者が触ってしまう場所を中心に抗菌加工を施し、定期的に換気するシステムの採用を検討していく。館内にシェアオフィスやテナント向けの共用ラウンジも設ける予定で、働き方の選択肢を増やすことで入居企業の満足度を高める考えです。大企業だけでなく、ベンチャー企業にも使えるオフィースビルしていこう考えています
三井不動産と八重洲通りを挟んで向き合うビルを建てるのは東京建物です。同社の本社ビルを含む「八重洲プロジェクト」では、2025年度にオフィスや医療施設、空港や地方都市を結ぶバスターミナル、劇場・多目的ホールで構成する地上50階のビルなどを建てる計画です。現在は、どんどんビルを建て壊し更地にしています。
オフィスや医療施設、バスターミナルなどの複合機能を有する(八重洲一丁目東地区市街地再開発事業)
新ビルでは、非接触や3密軽減を徹底します。オフィスエントランスでは、顔認証で入館できるゲートを採用し検温も実施します。入館する際、顔認証から行き先階を自動登録し、ゲートの表示器に乗るエレベーターの番号を瞬時に表示。エレベーターホールでは昇降ボタンや行き先階を押す必要なくスムーズに乗り降りできる。トイレや店舗の空き状況はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」で見える化します。
三菱地所も12月17日、常盤橋周辺の再開発プロジェクト(敷地面積3ヘクタール)の詳細を発表しました。2021年6月に40階建ての複合ビルが完成します。オフィスフロアの入居率は、現時点で8割程度とみられます。続いて2028年までに390メートルと日本一の高さを誇る、63階建ての「トーチタワー」が誕生します。(東京タワーより高いです)
「入居企業の社員が使うアプリ開発など利便性を追求していた」(常盤橋開発部の谷沢直紀統括)なか、新型コロナが発生しました。そこで、エレベーターの行き先を事前に伝え、ビルや共用スペースへの入館をスマホで行うことができる非接触システムの導入を検討します。
新常態の時代を見据え、約2500平方メートルの屋上庭園などを新たに整備します。当初1.2ヘクタールだった街区全体の屋外空間を約2ヘクタールまで拡大させ、来館者の快適さや感染症対策にも力を入れます。
大手3社が、コロナ対策で競い合う格好です。ただ千代田区を含む都心5区のオフィス空室率はコロナの影響や経済活動の低迷を反映して上昇が続きます。
仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が、公表した都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の8月の空室率は3.07%と前月から0.3ポイント上がりました。上昇は6カ月連続で、3%台は30カ月ぶりです。5%台とされる「危険水域」に近づいています。
在宅勤務の定着でオフィス不要論が現実のものとなり、空室率はさらに上昇するのか。事はそう単純ではないようです。
不動産サービス、CBRE(同・千代田)の大久保寛リサーチヘッドは「空室率はリーマン・ショック時の半分程度にとどまる」と予測する。リーマン直後は8~9%にまで上昇した。対面で働く大切さや一等地のオフィスビルの利便性などを踏まえ、企業ニーズは底堅く推移すると見ています。
在宅勤務の生産性低下を懸念する声も多いです。野村総合研究所が、5月に実施した調査によると、約50%が在宅勤務で生産性が下がったと回答しました。そもそも、家にいて仕事に集中力が、あがるかという問題です。誘惑が多いと思います
ずっと、youtubu見てしまうとか、家族の邪魔がはいったりと何かと気が散ってしまうことが多いと思います。
同社は、「緊急事態宣言」という特殊状況を考慮に入れるべきで、短絡的に結論付けるべきではないとするが、多くの人が不安を感じていることはこの調査から読み取れます。
パーソル総合研究所(同・千代田)の調査では、いったんテレワークをしたが、現在はやめた人の21%が(自宅などでは)ICT(情報通信技術)環境が不十分であることを理由に挙げています。オフィスビルに最先端のデジタル技術が整っていれば、会社の方針に関わりなく、在宅から出社に切り替える人は増えるかもしれません。
オフィスのDX化もウィズコロナ時代には不可欠といえます。「顧客企業からオフィスの3密対策や動線の見直しに関する相談が増えています」。不動産サービス大手、ジョーンズラングラサール(同・千代田)の河西利信社長もこう語ります。同氏はコロナ禍を契機にオフィスのDX化の重要性が、従来以上に増すとみます。席を固定しないフリーアドレス制を導入し、センサーで机ごとの使われやすい時間帯や利用者の人数を把握します。ソーシャルディスタンス(社会的距離)の可視化で3密を回避するわけです。社内の不満で多い空調面もセンサーで温度を測り、自動調整する動きが考えられるといいます。
東京建物の野村均社長は「企業が出社比率を引き上げる際、3密を避けるため1人当たりの面積を増やす考えも出てくる」と指摘する。テレワークと出社勤務の両方を念頭に置きつつ、あるべきオフィスの将来像をテナントもデベロッパーも模索している感じです。