持ち家のリフォーム費用が大幅に上昇しています。屋根や外壁、水道などの修繕は2020年比で15%前後高いです。リフォームを求める潜在需要は拡大しているが、人手不足などで、費用の高騰に歯止めがかからないです。今後は費用上昇を前提にした計画的な備えが欠かせないと思ってくださいませ。
「何かの間違いでは」。川崎市の60代女性は持ち家の戸建て住宅の外壁や屋根のリフォームの見積もりに驚いた。以前、同様の工事を頼んだ時より大幅に高く、予算を数十万円もオーバーしていました。
総務省の消費者物価指数(2020年=100)によると住居の外壁塗装、屋根修理、水道工事の足元の料金水準は20年に比べ軒並み15%前後上昇しています。
リフォーム費用は住宅の規模などで差があるが、標準的な戸建て住宅(延べ床面積116平方メートル程度、2階建て)の外壁塗装は値上がりの結果、120万〜130万円程度で、上昇幅は数十万円に上る例が多いとみられます。
リフォーム市場に詳しい彩ホームプランニング(神奈川県大和市)の豊田憲明代表は「人手不足など様々なコストアップ要素が2〜3年で一斉に出ている」と話します。
国勢調査によると大工の人数は過去約20年間でほぼ半減し、慢性的な人手不足と人件費の上昇を招いている。24年4月から建設業も時間外労働規制が強化される「2024年問題」があり、その影響も表れつつあります。
不動産コンサルティングのさくら事務所(東京・渋谷)の田村啓ホームインスペクターは「リフォームは住宅新築以上に省人化が難しい」と話します。新築では資材を事前に工場で加工するなどの技術開発が進んでいるが、対象となる住宅の劣化度や作業環境の個別差が大きいリフォームはこうした技術を導入しにくく、人手不足の影響を緩和しきれています。特に都心の狭い3階建て住戸は、無理無理に押し込んだプランなので、隣地との境界が狭いために足場を設けるのが大変です。さらに買った人は車を使わないかしれませんが、リフォームする時には大きな資材の搬入があるので、接道している道路が狭いといろいろな面でコストがアップする可能性があります。
さらに、20年からの新型コロナ禍、22年からのウクライナ危機など様々な要因で、建築資材の供給網は乱れ、コストアップを招いています。為替相場の円安傾向が輸入資材の値上がりにつながる場合も多いです。「今後も下落要素はほとんど見当たらず、一段の先高観がある」(豊田氏)
一方、リフォームの需要は底堅い。住宅リフォーム・紛争処理支援センター(東京・千代田)の調査では、市場規模は最新の22年で約6兆8600億円と、過去10年で約1兆4300億円も増えています。
その背景には長寿化があります。今や女性は2人に1人、男性も4人に1人は90歳まで生きる時代で、住宅で暮らす期間も長くなりやすい。結果、持ち家の老朽化に悩まされ、リフォームを求める人も増えています。
さくら事務所の試算によると、標準的な戸建て住宅の場合、雨漏り防止など基本的な機能維持のリフォームだけでも築30年で総費用は1100万円を超えます。いつ、どんな工事が必要になるかを調べて必要な貯蓄をしておくことが理想です。
依頼するリフォーム事業者を選ぶ時もコツがあります。複数事業者を比較することが大切だが、費用面だけでは、事業者の経験や技術力まではわからないことが多いです。田村氏は「単純な相見積もりではなく、リフォーム提案を出してもらい、その内容を比べると、事業者の実力をつかみやすい」と助言する。
一方、高齢期に多額の費用をかけてリフォームしても、その直後に健康問題などで、病院や介護施設に移らざるを得なくなるケースも少なくない。豊田氏は「自らの年齢も考慮に入れ、今の家にどれだけお金をかけるべきかを冷静に考えたい。場合によっては本当に必要な部分に絞って修繕することも選択肢になる」と話しています。
■マンションも早めの手配を
個別のリフォーム費用の高騰は主に戸建て住宅に影響するが、マンションでも定期的に行う外壁や屋根など共用部の大規模修繕費が上昇中です。「20年に比べ足元の水準は10%強ほど高い」(都内の修繕工事コンサルタント)。戸建ては所有者個人が費用負担するのが基本だが、マンションは通常、大規模修繕に備えた積立金制度があります。
ただ、国の18年度調査では修繕計画に対して積立金が不足するマンションは約35%に達します。マンションは戸建てよりも建物が大きいため、老朽化した際に必要なリフォームを怠ると悪影響も大きいです。例えば、外壁がはげ落ちれば近隣住戸や通行人の身体や財産にも被害を及ぼしかねない。積立金不足の心配が少しでもあるなら、所有者間で早めに対策の検討を始めたいです。
■公的補助金、用途は限定的
リフォーム関連の公的補助金は多いが、大半は省エネ改修支援など住宅の機能を現状よりも向上させる工事のために用意されています。雨漏りやシロアリへの対応など「『住宅の基本機能の維持』に使いやすい補助金は残念ながら、ほとんど存在しないのが実情」(さくら事務所の田村氏)で、こうしたリフォーム費用は自らの貯蓄や収入などで賄うのが基本です。